
「あまり噛まずに飲み込んでいる」その様子が気になったら
柔らかいものばかり選ぶ、数回噛んだだけでごくん——5歳ごろのお子さんの食事風景にそんな傾向を感じる親御さんは、決して少なくありません。噛む力は顎の発達や将来の歯並びとも関わるとされています。この記事では、家庭の食事や遊びの中で無理なく噛む力を育てる工夫と、歯科医院に相談する目安を整理します。
この記事の要点まとめ
- 噛む力の育ちは顎の発達や将来の歯並びと関わるとされ、丸飲みや片噛みは観察のポイントとなります。
- 食材の切り方や加熱、噛み応えのあるおやつなど、家庭の献立の工夫で噛む回数を増やせます。
- 気になる様子が続く場合は、生え変わり期を目安に歯科医院で口腔機能の確認を検討してください。
噛む力の弱さが子どもの顎の発達や将来の歯並びに及ぼす影響
食べる機能は、生まれたときから完成しているわけではありません。毎日の食事を重ねながら、少しずつ育っていくものと考えられています。柔らかい食品が中心の食生活が長く続くと、その育ちがゆっくりになる場合もあります1。
5歳ごろの丸飲み傾向が引き起こす顎の成長不足と叢生のリスク
咀嚼(そしゃく)は、顎の骨と周囲の筋肉に適度な刺激を与える運動でもあります。しっかり噛む動作が減れば刺激も不足しやすく、上下の顎が横幅方向へ広がる成長がゆるやかになる傾向が指摘されています3。
永久歯は乳歯より一回り大きく、顎の成長によって確保されたスペースに並んでいきます。スペースが足りないまま生え変わりが進むと、歯が重なって生える叢生(そうせい)につながる場合もあるとされます。つまり噛む力を育てることは、永久歯が並ぶ土台づくりに関わる取り組みといえます。
よく噛むことで唾液の分泌が促され、消化の助けやお口の中の環境維持に役立つとも考えられています。噛む刺激が脳への血流を高め、集中しやすい状態を支えるという報告もあります1。
「片噛み」や「お口ぽかん(口呼吸)」が咀嚼発達に与える影響
見落とされやすいのが、片側の歯ばかりを使う偏咀嚼(片噛み)です。左右どちらかに偏ると使う筋肉に差が生まれ、顎の左右バランスに影響することがあります。食事中、顔がどちらかへ傾いていないか、少し観察してみてください。
お口ぽかん(口呼吸)も咀嚼の発達と無関係ではありません。口が開いた状態では唇を閉じて食べ物をまとめる動きが弱まり、噛む前に飲み込みやすくなります。舌の位置も下がりやすく、上顎を内側から広げる力が働きにくくなる点にも注意が必要です3。
指しゃぶりや爪噛み、頬杖といった日常の癖(態癖)も、繰り返されることで歯や顎へ持続的な力を加えます。叱って止めさせるより、手が空く時間を遊びで埋める、姿勢を整えるなど、環境面から見直すほうが取り組みやすいでしょう。
今日から実践できる!噛む回数を自然に増やす食事と献立の工夫
共働きで時間が限られていても、献立を全面的に作り替える必要はありません。今ある料理の「切り方」と「火の通し方」を少し変えるだけで、噛む回数は自然と増えていきます2。
食材の切り方・加熱時間を工夫して咀嚼を促す調理ステップ
まず試しやすいのは、食材を大きめに切ること。ひと口で飲み込める大きさだと、そもそも噛む必要がありません。前歯で噛み切り、奥歯でつぶすという一連の動きを引き出すには、あえて前歯を使う大きさに整えるのがポイントです。
加熱時間も見直しどころ。にんじんやれんこんは芯まで柔らかくせず、歯ごたえが少し残る程度で火を止めます。きのこ類、ごぼう、こんにゃく、するめいかのような繊維や弾力のある食材を、週に数回加えるのも一つの方法です。
おにぎりを平たく大きめに握る、パンは薄切りより厚切りにする。こうした主食の工夫も手軽です。噛む回数の目安として、ひと口30回を家族で数える遊びにしてみると、お子さんも前向きに取り組みやすくなります。
噛み応えのあるおやつ選びと水分補給のタイミング
おやつは「甘さ控えめ+噛み応えあり」を軸に選ぶと、食育とむし歯予防の両面から取り組みやすくなります。小魚、干し芋、するめ、茎わかめ、皮つきのりんご、無糖のナッツ(誤嚥に配慮できる年齢から)などが候補です。ただし、だらだら食べは避け、時間を決めることが大切です2。
もうひとつ意識したいのが水分のタイミング。食事中に飲み物で流し込む習慣がつくと、噛まずに飲み込む癖が残りやすくなります。コップは食事の前半に少量、しっかり噛んで飲み込んだ後にひと口——このリズムを、親御さんが声かけで示してあげてください。
食卓の姿勢も見逃せません。足が床や足置きに着き、背筋が伸びた姿勢だと、顎と舌が本来の動きをしやすくなるといわれています。
家庭でできる「お口の機能&噛む力」セルフチェックと簡単トレーニング

「うちの子は噛めているのだろうか」——その手がかりは、毎日の食卓にあります。特別な道具は要りません。まずは観察から始めてみましょう。
観察してみよう!子どもの咀嚼状態を確かめるチェックリスト
次の項目を、食事中のお子さんに当てはめて見てください。
- 食事に極端に時間がかかる、または驚くほど早く終わる
- 口を開けたまま噛み、クチャクチャと音が出る
- 硬いものを口に入れると出してしまう
- 飲み物で流し込むことが多い
- いつも同じ側ばかりで噛んでいる
- 安静時に口が開いている、唇が乾きやすい
- 発音が不明瞭な音がある
当てはまる項目が複数続くようなら、口腔機能の発達に配慮が必要なサインとして受け止め、歯科医院での確認を検討してください。なお、こうした状態が一定の基準を満たすと「口腔機能発達不全症」として、保険診療の中で管理・指導の対象になる場合があります3。
遊びながらお口の筋肉を鍛えるトレーニング(MFTの応用)
お口の筋肉を整える取り組みはMFT(口腔筋機能療法)と呼ばれます。家庭では遊びの形に置き換えると、続けやすくなります。
風船をふくらませる、吹き戻しやシャボン玉で息を長く吐く、太めのストローでヨーグルトを吸う、舌先で上顎の裏をノックする、「あいうべ」と大きく口を動かす。どれも数十秒から始めて構いません。市販の粒ガムを片側ずつ噛んで左右の感覚を確かめる遊びも、偏咀嚼への気づきにつながります。
毎日長時間頑張るよりも、歯磨きの後に1〜2分というように、すでにある習慣にくっつけるほうが定着しやすいものです。うまくできた日はしっかり褒める。それが何よりの継続の力になります。
歯科医院への相談タイミングと成長に合わせた専門的なアプローチ
家庭での工夫を数か月続けても様子が変わりにくいとき、あるいは判断に迷うとき。それが相談の目安です。早めに状態を把握しておくこと自体が、選べる方法を広げることにつながります1。
本格的な小児矯正を検討する前に知っておきたい予防的観点
「歯科医院に行くと、すぐ装置をつける話になるのでは」と身構える親御さんは多いのですが、成長期のお子さんへのアプローチは、装置による矯正だけではありません。
食べ方や呼吸、舌の使い方といった機能面を整える指導、姿勢や癖の見直し、生え変わり期の観察。こうした段階的な関わり方もあります。乳歯から永久歯への生え変わり期は、顎の成長を活かしやすい時期のひとつとされ、この期間にお口の機能を整えておくことは、その後の選択肢を考えるうえでも意味を持つと考えられています3。
費用面やお子さんの負担が気になる場合も、まずは「今どの段階にいるのか」を確かめる相談から始めれば十分です。
つづき歯科で行うお口の機能チェックと健診での相談ステップ
当院では、定期健診の場でむし歯のチェックだけでなく、噛み方や唇の閉じ方、舌の位置など、口腔機能の育ち方もあわせて確認しています。院長は口育士および日本口育協会の会員として、食べる・話す・呼吸するという機能面からお子さんの成長を見る視点を診療に取り入れています。管理栄養士の視点を踏まえた食事のアドバイスも行い、忙しいご家庭で続けられる範囲から一緒に組み立てていきます。
また当院では、予約や歯のご相談をLINE・メールでも受け付けており、休診期間中も確認次第お返事しています。受診前に聞いておきたいことがあれば、遠慮なくご連絡ください。診療内容や費用の目安についても、事前にご説明したうえで進め方を一緒に考えます。
よくある質問
Q1. 何歳ごろから噛む力を意識した食事にしたほうがよいですか?
A. 離乳食期から段階的に食材の硬さや大きさを移行していくのが基本とされますが、5歳ごろからでも工夫の余地は十分あります。生え変わり期に向けて、今ある献立の切り方や加熱具合を見直すところから始めてみてください。
Q2. 家庭の工夫だけで歯並びは整いますか?
A. 噛む力やお口の機能を育てる取り組みは土台づくりとして意味がありますが、それだけで歯並びの状態が決まるわけではありません。遺伝的な骨格や歯の大きさなども関わりますので、歯科医院で現状を確かめながら進める方法をおすすめします。
Q3. 硬いものを嫌がって食べてくれません。
A. 無理に硬いものを与えると、食事そのものが苦手になってしまうこともあります。まずは今の食材を大きめに切る、加熱をやや控えるといった小さな段差から試し、食べられた経験を積み重ねる方向が取り組みやすいでしょう。
Q4. お口ぽかんはどのタイミングで相談すべきでしょうか。
A. 安静時に口が開いている、寝ている間も口呼吸が目立つ、といった状態が日常的に続く場合は、一度確認しておくとよいでしょう。鼻の疾患が関係していることもあり、耳鼻いんこう科との連携が必要になるケースもあります。
Q5. 口腔機能発達不全症の管理に保険は使えますか?
A. 診断基準を満たす場合、現行制度では保険診療の中で管理や指導を受けられる仕組みがあります。適用の可否は診査結果により異なりますので、受診時にご確認ください。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
3. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/
2011年 愛知学院大学歯学部附属病院 総合診療科
2012年 名古屋市内歯科医院 勤務
2018年 つづき歯科医院 常勤
2019年 つづき歯科 開業
・日本ヘルスケア歯科学会
・JSPP(全国小児歯科開業医会)
・公益社団法人日本糖尿病協会
・日本小児矯正研究会
・日本顕微鏡歯科学会
・日本口育協会
【資格】
・インビザラインドクター
・日本糖尿病協会登録歯科医
・口育士
