
練習を始める前に知っておきたいこと
口周りの体操を毎日続ければ、歯並びも整っていくのでは。そう考えて練習法を探す親御さんは少なくありません。ただ、口腔筋機能療法(MFT)は、歯を動かす治療とは役割が異なります。この記事では、口呼吸や舌で前歯を押す飲み込み方と歯並びの関係、家庭での取り組み方、歯科に相談する目安を整理しました。練習を始める前に、まずお口の状態を確かめましょう。
この記事の要点まとめ
- 口周りトレーニング(MFT)は舌や唇の使い方に働きかける方法で、歯を動かす矯正治療とは役割が異なります。
- 口呼吸や舌で前歯を押す飲み込み方、開咬などが続く場合は、歯並びと口の使い方を歯科で確認します。
- 練習はお口の状態に応じて選び、日常の様子を記録して相談時に伝えましょう。健診で指摘された場合も受診を検討します。
口呼吸や舌の癖は、子どもの歯並びにどう関わる?

歯は、舌が内側から押す力と、唇や頬が外側から押さえる力のあいだに並んでいます。口が開いたままの状態や舌の癖が長く続くと、この釣り合いが崩れて歯並びに影響することがあります。とはいえ、癖だけが原因とは限りません。
口が開く・舌が低い・前歯を押す飲み込み方
本来、舌の先は上の前歯のすぐ後ろ(スポットポジションと呼ばれる位置)に軽く触れ、唇は力を入れずに閉じています。舌が下の歯のあたりに落ちている状態は、低位舌と呼ばれます。
家庭では、こんな場面で気づくことがあります。
- 宿題やテレビに集中しているとき、口が開いている
- 飲み込む瞬間、舌先が前歯の間から見える
- 寝ているあいだ、口で呼吸している
呼吸のしかたや飲み込み方、舌の位置は、歯並びとあわせて評価される項目です1。
前歯がかみ合わない状態と、指しゃぶりなどの習慣
奥歯でかんでも上下の前歯にすき間が残る状態を、開咬(かいこう)といいます。舌を前に出す飲み込み方や指しゃぶりが気になる場合は、開咬との関わりも含めて歯科医師にご相談ください。
一方で、歯並びには顎の成長や歯の生え方も関わります。指しゃぶりをやめさせる装置についても、研究の質や結果にばらつきがあると指摘されています2。年齢や頻度、本人の気持ちによって向き合い方は変わるため、無理にやめさせるより、まず状態を確かめることを優先したいところです。
口周りのトレーニングと矯正治療は役割が違う
口腔筋機能療法(MFT)は、舌・唇・頬の使い方や日常の習慣に働きかける方法です。歯そのものを動かす矯正治療とは、目的が異なります。
研究をまとめた報告でも、MFTや早期の矯正治療が開咬や舌の位置などに与える影響は、根拠の確かさに限りがあるとされています1。どうして癖が続いているのかを見ないまま練習だけを重ねても、歯並びの悩みが解消するとは言い切れません。
ポイント
口周りの練習だけで歯並びが整うとは限りません。歯並びの状態によっては、矯正治療を並行して検討することがあります。
家庭での口周りトレーニングは、何から始める?

体操の回数を増やすより先に、普段の口の使い方を観察するところから始めましょう。どの練習が合うかは、お口の状態によって変わります。
舌の位置と唇の閉じ方を、日常の中で確かめる
食事中やくつろいでいるときに、唇が閉じているか、鼻で呼吸できているかを見てみてください。「いま舌はどこにある?」と声をかけると、本人が自分で気づくきっかけになります。
舌先を上あごに吸い付けて離すポッピング、あいうべ体操、パタカラ体操など、口周りの筋肉の練習にはさまざまな種類があります。ただ、鼻づまりがある場合や、かみ合わせの影響で唇が閉じにくい場合は、練習が合うか歯科医師にご相談ください。練習の種類は、歯科でお口の状態を見てもらってから選ぶとよいでしょう。
吹き戻しは何歳から?遊びを練習に使う際の注意
吹き戻しやシャボン玉は、唇をすぼめて息を吐く遊びとして取り入れやすいものです。ただし、何歳からと一律に区切ることはできません。息を吹く・吸うの区別がつくか、くわえたまま走り回らないかなど、お子さんの様子で判断します。
シャボン液を吸い込まないよう、小さいうちは親御さんがそばで見守ってください。遊びはきっかけづくりと考え、舌の位置や飲み込み方の練習の代わりになるとは限らない点も押さえておきましょう。
長く頑張るより、無理なく続けて変化を伝える
練習の頻度や1回の時間は、指導内容とお子さんの集中力に合わせて決めます。習い事がある日は短めにするなど、家庭の予定に合わせて調整して構いません。
続けるうえで役立つのが、簡単な記録です。
- 口が開いていた場面(食事中・テレビ・就寝中など)
- 飲み込むときに舌が見えたかどうか
- 練習を嫌がった日と、その理由
練習中に顎や舌の痛み、違和感が出たときは中断し、歯科医院に相談しましょう。記録があると、診察のときに変化を伝えやすくなります。
歯科に相談する目安と、受診時に伝えること
学校歯科健診で歯並びを指摘されたときや、口の癖がしばらく続いているときは、家庭の練習だけで様子を見るより、一度歯科で確認しておくほうが判断しやすくなります。
前歯がかみ合わない・口呼吸が続くときは相談を
次のような場合は、相談を考えてよいタイミングです。
- 健診で歯並びやかみ合わせを指摘された
- 舌で前歯を押すような飲み込み方が続いている
- 日中も就寝中も、口呼吸が目立つ
- 下の永久歯が乳歯の内側から生えてきた
大きないびきや、寝ている間に呼吸が止まるように見える様子がある場合は、小児科や耳鼻咽喉科への相談も検討してください。子どもの睡眠中の呼吸の問題に対しては、MFTを含むいくつかの方法が研究されていますが、評価はまだ途上です3。
歯科では歯並びと口の使い方を一緒に確認する
歯科では、歯の生え方やかみ合わせに加えて、舌の位置、唇の閉じ方、飲み込み方を確認します。そのうえで、練習が必要か、矯正の相談まで進めたほうがよいかを判断していきます1。
受診のときは「夕食中に口が開いている」「飲み込むと舌が見える」など、気になった場面を具体的に伝えてください。指しゃぶりの有無や頻度も判断材料になります2。短い動画があると、診察室では見えにくい普段の様子が伝わりやすくなります。
つづき歯科では、お子さんのできる範囲から進めます
当院では、処置より先に、まず歯科医院の雰囲気に慣れてもらうことを大切にしています。お口のトレーニングも、お子さんのペースで日常の癖を少しずつ見直していくものと考えています。
歯科での相談では、お子さんの歯の生え方やかみ合わせ、口の使い方などを確認したうえで、矯正の開始時期や方法について歯科医師と話し合います。小児矯正の多くは自由診療(公的医療保険が適用されない診療)です。
一般的に、乳歯と永久歯が混在する時期に行う小児矯正(第1期治療)は、費用・治療期間・通院頻度が治療内容やお口の状態によって異なります。具体的な目安は歯科医師にご相談ください。費用には、検査・診断料、装置料、通院ごとの調整料などが含まれ、どこまでを総額に含めるかは医療機関によって異なります。永久歯がそろった後に本格的な矯正(第2期治療)へ進む場合は、別に費用と期間がかかります。ここで述べた費用の内訳は一般的なものであり、当院の費用ではありません。当院の費用・期間・通院回数は、診察のうえでご案内します。
小児矯正やお口のトレーニングでは、次のような副作用やリスクが起こることがあります。
- 装置を入れた直後や調整後に、歯が浮いたような痛みや、かんだときの痛みが出る
- 装置が頬や舌に当たり、口内炎やすり傷ができる
- 装置のまわりに汚れがたまりやすく、歯磨きがしにくいため、むし歯や歯ぐきの炎症が起こりやすくなる
- 装置に慣れるまで、話しにくさや違和感がある
- 歯の根が短くなる(歯根吸収)ことがある
- 装置の使用時間が足りない場合や、治療後に癖が残る場合、歯並びが元に戻ろうとする(後戻り)ことがある
- 口周りの練習で、顎や舌、唇の筋肉に疲れや痛みが出ることがある
気になる症状が出たときは、自己判断で続けずに歯科医院に相談してください。
家での練習は続けながら、状態の確認は歯科で。記録やメモを持って、一緒にお子さんのお口を見ていきましょう。
よくある質問
Q. 口周りの筋トレをすれば、歯並びはよくなりますか?
A. 口周りの筋肉の練習は、舌や唇の使い方、口の習慣に働きかけるものです。歯を動かす治療ではないため、練習だけで歯並びが整うとは限りません1。歯並びの状態によっては、矯正治療の相談をあわせて考えます。
Q. 歯並びのために、普段から意識できる習慣はありますか?
A. 唇を閉じて鼻で呼吸する、舌先を上の前歯の後ろあたりに置く、食事のときに口を閉じてかむ、といった点を親子で意識してみてください。鼻づまりがある場合は、先に耳鼻咽喉科で相談したほうがよいこともあります。
Q. 吹き戻しは何歳から使えますか?
A. 年齢で一律に決めることはできません。息を吹く・吸うの区別ができるか、くわえたまま動き回らないかなどを見て判断し、小さいうちは親御さんがそばで見守ってください。不安があれば歯科で相談しましょう。
Q. MFTは大人でもできますか?
A. 大人の方が舌の位置や飲み込み方を見直す目的で取り組むこともあります。ただ、骨格の成長が終わっているぶん目的や進め方は子どもと異なるため、歯科医師に相談したうえで判断してください。
参考文献
1. Koletsi D, Makou M, Pandis N. Effect of orthodontic management and orofacial muscle training protocols on the correction of myofunctional and myoskeletal problems in developing dentition. A systematic review and meta-analysis. Orthodontics & Craniofacial Research. 2018. PMID: 30152171 / DOI: 10.1111/ocr.12240
2. Moore NL. Suffer the little children: fixed intraoral habit appliances for treating childhood thumbsucking habits: a critical review of the literature. The International Journal of Orofacial Myology. 2002. PMID: 12572258
3. Yu M, Ma Y, Xu Y, et al. Orthodontic appliances for the treatment of pediatric obstructive sleep apnea: A systematic review and network meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2023. PMID: 37820534 / DOI: 10.1016/j.smrv.2023.101855
2011年 愛知学院大学歯学部附属病院 総合診療科
2012年 名古屋市内歯科医院 勤務
2018年 つづき歯科医院 常勤
2019年 つづき歯科 開業
・日本ヘルスケア歯科学会
・JSPP(全国小児歯科開業医会)
・公益社団法人日本糖尿病協会
・日本小児矯正研究会
・日本顕微鏡歯科学会
・日本口育協会
【資格】
・インビザラインドクター
・日本糖尿病協会登録歯科医
・口育士
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